鉄骨造の仕口とは?知っておきたい10のポイントと製作工程をわかりやすく解説

鉄骨造の建物を支えるうえで、非常に重要な部分のひとつが「仕口(しぐち)」です。
仕口とは、簡単にいうと柱と梁が接合する部分のことです。建物にかかる力を柱から梁へ、梁から柱へと伝える重要な役割を持っています。
ただし、「仕口」という言葉が指す範囲は、人や会社によって少し異なります。
鉄骨加工工場では、「仕口」という言葉よりも「タイコ」「サイコロ」「コア」「ブロック」「パネルゾーン」などの呼び方が使われることもあります。
たとえば、切断した角形鋼管柱の上下に通しダイアフラムを取り付けたものを「サイコロ」や「コア」などと呼び、さらにブラケットと呼ばれる短い梁を取り付けた状態を「ブロック」などと呼ぶことがあります。
この記事では、これらをまとめて「仕口」と呼び、鉄骨造の仕口がどのような工程で製作されているのかを、10のポイントに分けてわかりやすく解説します。
仕口には2つの代表的な形式がある

鉄骨造の仕口には、大きく分けてブラケットタイプとノンブラケットタイプがあります。
ブラケットとは、柱にあらかじめ取り付けておく短い梁のことです。
ブラケットタイプでは、鉄骨加工工場で柱にブラケットを溶接しておき、建設現場ではブラケットと本体の梁を高力ボルトなどによって接合します。
一方、ノンブラケットタイプでは、柱と梁を建設現場で直接接合します。
ブラケットタイプは、ブラケットが柱から張り出すため、運搬時には部材がかさばるというデメリットがあります。
しかし、品質管理された工場内で重要な溶接を行うことができ、現場での溶接作業を減らせることが大きなメリットです。
特に中小規模の鉄骨造では、施工性や品質管理の面からブラケットタイプが採用されるケースがあります。
ここからは、ブラケットタイプを例に仕口の製作工程を見ていきましょう。
H形鋼を必要な長さに切断する

最初に行うのが、ブラケットに使用するH形鋼の切断です。
鉄骨加工工場では「バンドソーマシン」と呼ばれる機械が使われます。
日本語では帯鋸盤と呼ばれ、帯状の刃を高速で動かしながら、H形鋼を少しずつ切断していきます。
建物の設計図や鉄骨製作図をもとに、必要となる梁の長さを正確に確認し、所定の寸法で切断します。
仕口は複数の鋼材を組み合わせて製作するため、この段階で寸法に誤差があると、その後の組立や現場での施工にも影響します。
そのため、最初の切断工程から高い精度が求められます。
ボルト接合のための孔をあける

H形鋼を切断した後は、ボルト接合に必要となる孔をあけます。
鉄骨加工工場では、高速孔あけ加工機などを使用します。
ブラケットタイプの場合、柱に取り付けたブラケットと現場へ搬入された梁を接合するため、高力ボルトを使用する部分があります。
そのため、あらかじめ正確な位置にボルト孔を設けておかなければなりません。
孔の位置が少しでも大きくずれてしまうと、建設現場でボルトを通すことができなくなる可能性があります。
鉄骨製作では「現場で組み立てられる精度」を工場内でつくり込むことが重要なのです。
溶接するための「開先」を加工する

続いて行うのが「開先(かいさき)」の加工です。
開先とは、2つの鋼材をしっかり溶接するため、接合部分にあらかじめ設ける溝のことです。「グルーブ」と呼ばれることもあります。
代表的な形状には、レ形、V形、I形、K形、X形などがあります。
ブラケットをダイアフラムへ溶接する部分などでは、必要に応じてフランジ部分を斜めに削り、適切な開先を設けます。
開先は、広ければよいというものではありません。
角度が狭すぎれば溶接金属が十分に入り込まず、必要な強度を確保できない可能性があります。
反対に、開先を広くしすぎると必要な溶接金属の量が増え、溶接による収縮や変形も大きくなります。
そのため、設計や施工条件に合わせて適切な形状に加工することが重要です。
「サイコロ」を製作する

次に、仕口の中心部分となる「サイコロ」を製作します。
サイコロとは一般的に、短く切断した角形鋼管柱とダイアフラムなどによって構成される仕口部分を指す呼び方です。
ダイアフラムとは、柱と梁の接合部に取り付ける鋼板のことです。
梁から伝わってくる大きな力を柱へ安全に伝達する役割があり、鉄骨造では非常に重要な部材です。
ダイアフラムには、柱を途中で分割して鋼板を挟み込む「通しダイアフラム」や、角形鋼管の内部に設ける「内ダイアフラム」などがあります。
建物によって梁の高さや大きさが異なるため、接合条件に合わせて複数の方法を組み合わせることもあります。
本溶接の前に組立溶接を行う

鋼材をいきなり本溶接するのではなく、まず「組立溶接」を行います。
組立溶接とは、部材が動いたり位置がずれたりしないように、一時的に固定するための溶接です。一般的には仮付け溶接とも呼ばれます。
たとえば内ダイアフラムを設置するときには、角形鋼管の内部の所定位置に鋼板を配置し、裏当て金などを取り付けながら位置を固定していきます。
角形鋼管のコーナー部分には丸みがあります。
その形状や溶接条件を考慮しながら、適切な位置へ鋼板を配置することが必要です。
組立溶接によって部材を正確に固定してから、本格的な溶接作業へと進みます。
鉄骨製作では、この「組み立てた段階での精度」が完成後の品質を大きく左右します。
ガスシールドアーク溶接で本溶接する

部材の固定が完了すると、本溶接を行います。
鉄骨加工工場で広く使用されている方法のひとつが、ガスシールドアーク溶接です。
溶接用のワイヤーがトーチから自動的に送り出され、そのワイヤーと鋼材の間に発生させたアークの熱によって金属を溶かして接合します。
同時にシールドガスを送り、溶接部分を大気から保護します。
これによって、安定した溶接品質を確保しやすくなります。
また、溶接部の端部には「エンドタブ」と呼ばれる部材を取り付けることがあります。
溶接の始まりや終わりは欠陥が発生しやすいため、母材の外側まで溶接を延長できるようにするための部材です。
これによって、必要な部分を確実に溶接することができます。
通しダイアフラムとブラケットを接合する

サイコロ部分ができたら、通しダイアフラムやブラケットを組み合わせていきます。
まず専用の治具を使用して部材の位置を正確に合わせ、組立溶接を行った後、本溶接へと進みます。
ブラケットを取り付けるときには、梁の上端とダイアフラムの位置関係を正確に合わせることが重要です。
特に梁フランジとダイアフラムの接合部は、梁から大きな力が伝わる部分です。
そのため、設計条件に応じて「完全溶込み溶接」が使用されます。
完全溶込み溶接とは、接合する鋼材の板厚全体を一体化させるように溶接する方法です。
大きな応力が加わる重要な構造部分に使用されます。
一方、ウェブ部分などでは「隅肉溶接」が使用されることがあります。
部材に加わる力や接合部の役割によって、適切な溶接方法を使い分けているのです。
仕口が凸凹しているのには理由がある

完成した鉄骨造の仕口を見ると、鋼板や溶接部分が多く、複雑で凸凹した形状になっていることがあります。
一見すると、「もっと単純な形にできないの?」と思うかもしれません。
しかし、この複雑な形には理由があります。
柱と梁の接合部には、地震や風、建物そのものの重量などによって大きな力が集中します。
それらの力を安全に伝えるために、ダイアフラム、ブラケット、裏当て金、溶接部などが組み合わされています。
つまり、この凸凹した形状こそが、建物の安全性を支えるための工夫の積み重ねなのです。
溶接後にエンドタブを切除する場合もありますが、施工方法によっては裏当て金などがそのまま残ることがあります。
そのため、完成した仕口は独特の形になります。
裏当て金を使わない「裏はつり」という方法もある

建物の意匠や施工条件によっては、裏当て金を残したくない場合や、裏当て金を使用することが難しい場合があります。
そのようなときに行われる方法のひとつが「裏はつり」です。
まず片側から溶接を行った後、反対側から溶接部分の一部をガウジングなどによって削り取ります。
その後、削った部分を反対側から再び溶接します。
こうすることで、裏当て金を使用せずに必要な溶込みを確保することができます。
溶接後に取り外せるタイプのエンドタブなどを使用すれば、仕上がりを比較的すっきりさせることも可能です。
ただし、実際の溶接方法は、鋼材の種類や板厚、設計条件、溶接施工要領などによって異なります。
まとめ|仕口には鉄骨造を丈夫にする工夫が詰まっている

今回は、鉄骨造の「仕口」について、製作工程を10のポイントに分けて解説しました。
仕口とは単純に柱と梁をつないでいる部分ではありません。
H形鋼の切断から始まり、孔あけ、開先加工、ダイアフラムの組み立て、組立溶接、本溶接、ブラケットの取り付けなど、多くの工程を経て完成します。
特に重要なのが、柱と梁の間で力を確実に伝えることです。
そのために、通しダイアフラムや内ダイアフラム、完全溶込み溶接、隅肉溶接などを、接合する場所や目的に応じて使い分けています。
鉄骨造の仕口を近くで見ると、鋼板や溶接部が重なり合い、複雑で凸凹した形をしています。
しかし、その一つひとつには意味があります。
仕口の複雑な形状には、地震や風などの力に耐え、建物を安全に支えるための技術と工夫が詰まっているのです。
普段、完成した建物ではほとんど目にすることのない仕口ですが、鉄骨造の安全性を支える重要な部分です。
鉄骨造の建物を見る機会があれば、ぜひ「柱と梁がどのようにつながっているのか」という視点でも建物を見てみてください。
鉄骨造の構造が、これまでとは少し違って見えてくるかもしれません。

